今回から始まりましたよ〜よ〜さんによるバンコク路線バスの旅コラム、これから不定期でよ〜よ〜さんにバス路線の旅や小説等を書いていってもらおうと思います。

それでは第1回目、どうぞ!


 バンコク路線バスの旅 −路線番号1番− ワット・プラケヲからタノン・トックまで

一作目乗ったバス バンコクの路線バスは、必ずしも停留所では乗客を待たない。バス番号が見取れないほど離れた位置で乗降が始まる時もあれば、車両が乱雑する大道の真中にて扉が開かれる場合もある。かといって、乗り遅れまいと小走りで近寄ると、突然扉を閉じて動き出し、今度は正確に停留所の看板前で停まってみたりする。この気儘な動きに客はいつも右往左往させられるものだが、間誤ついているうちに目的のバスが急発進で去り行くことも少なくない。特に、予備知識ももたず、偶には途中下車などしながら、始発から終点までの旅を始めようとしている私にとって、乗り遅れていつ来るとも分からない次のバスを待つことは如何しても避けたい。バンコクの路線バスに時刻表はなく、そして何よりもこの国は灼熱の太陽を持っているのだから。
その陽射しを全身に浴びながら、私はワット・プラケヲの傍で、路線番号一番のバスを待っていた。バンコクで最も名のあるこの観光地周辺の道はよく整備されており、しっかりとコンクリートで固められている。王宮を囲む巨大な白壁と相まって、停留所は照り返しに眩しい。暑さと気だるさの中、私はせめて日影でも探そうとタオルで汗を拭いながら、停留所付近の歩道を徘徊してみたが、日差しに耐えられそうな場所には既に効率よく物売りの椅子が置かれていた。前面には商品の置かれた机やシートが広がり、絵葉書や木彫りの像、鮮やかな色の雑貨などが並べられている。物売りの間を縫うようにして、様々な人種がエネルギッシュに行き交わっている。少し先のほうから、手打ち太鼓に合せた盲目の少年の歌声が聞こえてきた。誰しもが、少年のあどけない表情に顔を向けるが、立ち止まる者は一人としていない。私はそれらの様子に圧倒されたのか、暫くぼんやりと過ごしていると、突然背後で錆びた金属音が聞こえた。はっと、振り返ると、思ったより早く柿色の小型バスが停車していた。慌てて路上に出、手を振りながらバスを目掛けて走る。バスはおおかた発車しかかっていたが、排気ガスの生暖かさを感じる位置まで近づくと、閉じられた扉が再び開かれた。運よく車掌が見つけてくれたらしい。
「レオ、レオ、レオレオー!」
 と、その女車掌の急かす声を浴びながら、私は一気に階段を駆け上がり、そのまま運転席のすぐ後ろに座った。

一作目、車窓から見える風景 座席で息を整えている間にも、バスは勢いよく王宮の白壁に沿って進んでいく。窓から入る風が心地よい。途中、幾何学模様に刈り込まれた植木や大砲の並ぶ広場の前を過ぎた後左折し、チャルーン・クルン通りの中華街に入っていった。タイ文字から、漢字の看板が多くなるにつれ、道路は混雑し、渋滞になった。運転手は予定していたかのようにくつろぎ始め、ハンドル前のボタンを押して、陽気なタイ人歌手の歌声を車内いっぱいに流した。車掌も切符を切りながらめいめい乗客のところに赴き、運賃を徴収しはじめた。八バーツを支払い、気の強そうな中年の女車掌と目線があうと、どちらからともなく愛想笑を交わした。
 機能的な大きさのバスの中は、想像していたよりも小奇麗だ。乗客はそれほど多くはなかったが、観光地からの路線らしく、一様によそ行きの服装をし、土産袋を手にしていた。漢字に変わりタイ文字が多くなってくると、またバスはスピードを上げ始めた。チャルーン・クルン通りを変わらず走っている。やがてバンパーク・ポリスステーションの看板が見えると、その辺はアフリカ人街なのだろうか、黒人の姿がちらほら見られた。停留所に止まると、二メートルを超えそうな、しっかりとした体つきの若い黒人男性が乗り込み、遠慮がちに私の隣に座った。長い脚を折り畳み、大柄の男が出来るだけ小さく座ろうとする姿は滑稽でありながら、なんとも言えない可愛らしさと人間味を感じさせた。相好を崩している私を見ると、彼は肩をすくめておどけた表情で、
「ベリー・スモール」
 と、座席を指さして笑った。即座に私が、
「ベリー・ビッーク」
 と、右手で彼の身長を表現しながら笑うと、胸に両手を当てて更におどけて見せた。我々は打ち解けた感じで、互いの境遇などを語り合った。彼はアポロという名前で二十八歳。バンコクで化粧品を買い付けては、父親の経営するタンザニアの会社に送っているという。これからサパーンタクシンの、ロビンソンデパートで市場調査をするらしい。来月に、二年ぶりに祖国に帰国することを楽しみにしていた。私が、行先も知らない路線バスの旅の途中であることを知ると、
「終点はタノン・トックだよ。そこは道が落ちる場所って意味さ。」
 と、ウインクしながら教えてくれた。語り合う内に、あっという間に時は過ぎ、サパーンタクシンの停留所に到着した。ロビンソンのすぐ前だ。アポロとはそこで別れた。
 バスは再び動き出し、快調に進んでいく。二三の停留所を超えると乗客は私一人となり、スピーカーから流れる流行歌もより大きく響いて聞こえるようになった。終点が近づいているのを感じ始めた。これから出会うだろう、見ず知らずのローカルな景色を勝手に思い浮かべ、わくわくする気持ちが膨らんだ。暫くすると、想像していたよりも早く、ここが終点だと車掌が伝える停留所に着き、そこで降ろされた。前には大きな病院が建っている。「チャロントン・バサラー病院」と、バミー売りの主人が教えてくれた。見渡すと、何処にでもあるロータス・エクスプレスがあり、いくつかの屋台が並ぶ他は、特に代わり映えのない景色だ。更に、終点が「旅情」の文字からは離れて連想される、極めて日常的な病院前ということもあり、私は物足りなさを覚えしばし佇んでいたが、どこかで決着をつけようと、終点からまだ続く道を歩くことにした。灼熱の日差しを浴び、汗が滴る。「物事の終わりなどは案外味気ないものかもね」と、呟いてみた。一番のバスが路上に何台も停車している傍を過ぎ、さらに歩き続けるとやがて運河が見え、道はそこで終わっていた。
「道が落ちるところさ。」
 と、ウインクするアポロの表情が浮かんだ。私は納得して振り返り、元来た道をまた歩き始めた。


yoyo6■名前 よ〜よ〜(アラフォー30代)
 お菓子の卸問屋で働きながら、文章力を買われ、ラブレターの代筆等を引き受ける。
 現在はバンコクに移住し、旅日記やコラムをウッドボールブログ等に連載中。
・タイ語 屋台のおばちゃんが先生。現在勉強中。
・性格 調子に乗りやすい。時々自己嫌悪に陥る
・趣味 潜在意識にての黄昏。
・愛読書 シルバーバーチの霊訓。
・理想のタイプ ヘレンケラー 夏目雅子



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